現在、国内で最も大きな脅威となっているマルウェアとして「EMOTET」が挙げられます。本ブログでもこれまで、EMOTETに関する様々な注意喚起と解析記事を取り上げてまいりました。EMOTETの主な拡散経路はマルウェアスパム、つまりメール経由です。EMOTETの攻撃メールのほとんどで、不正マクロを含むOffice文書ファイルを添付ファイルなどの形式で開かせる手口が使われてきました。これに加えこの4月末からは、Windowsのショートカットリンク(.lnk)ファイルを悪用する新たな手口も確認しています。本記事ではこのEMOTETの、不正マクロを含むOffice文書ファイル、ショートカットリンクファイルの双方の手口に対して弊社トレンドマイクロの検出技術がどのように有効であるのかを検証いたしました。検証にあたっては、当社のサポートケースでご提供いただいた検体やインターネット上から入手可能なサンプルを使用しました。またトレンドマイクロの検出技術としては、クロスレイヤの検知と対応(XDR)機能を搭載する脅威防御のプラットフォーム「Trend Micro Vision One™」を用いました。検証のシナリオとしては、添付ファイルに対し従来型検出技術(パターンマッチング)が未対応のタイミングでEMOTETのマルウェアスパムが着信し、利用者が添付ファイルを開いてしまった場合を想定します。
続きを読むマルウェア「EMOTET」の活動に変化が見られました。新たにEMOTETの活動に悪用されたのはWindowsのショートカットリンク(.lnk)ファイルです。このようなショートカットリンクを悪用する手法は、標的型攻撃の中では少なくとも2016年の段階で確認されている手法ですが、EMOTETのマルウェアスパムで確認されたのは初めてです。本項執筆時点の4月28日現在、この不正ショートカットリンクを含むEMOTETスパムはまだ大量送信には至っていませんが、既に中心的な手口となってきているため、本記事をもってこのEMOTETの新たな手口への注意喚起といたします。

図:2022年4月22日以降に確認されたEMOTETスパムの例
添付ファイル内にショートカットリンク(LNKファイル)が含まれている
トレンドマイクロは、16進表記 / 8進表記のIPアドレスを用いてパターンマッチングの検出回避を試みるEmotetスパムキャンペーンを観測しました。どちらのキャンペーンもソーシャルエンジニアリングの手法を用いており、メール受信者を騙して添付ファイルのマクロ機能を有効化させることでマルウェアを自動で実行させます。一連の処理を受け取ったオペレーティングシステム(OS)は、自動的にそれらの値をドット付き10進表記に変換し、外部サーバからの要求を実行します。個人ユーザおよび法人組織は、Emotetからダウンロードされる「TrickBot」や「Cobalt Strike」などの第二段階で配信されるマルウェアを侵入させないためにも、スパムメール / 不正コンテンツの検出機能やブロック機能、および関連する対策機能を有効化してキャンペーンに警戒する必要があります。
続きを読む2021年9月、Squirrelwaffleは、スパムキャンペーンを通じて拡散される新種のローダとして登場しました。このキャンペーンは、悪意のある電子メールを既存のメールチェーンに返信する形で送信していたことで知られています。これは、不正活動に対するメール受信者の警戒心を弱めるための戦術です。これを可能にするために攻撃者は、Microsoft Exchange Serverの脆弱性である「ProxyLogon」と「ProxyShell」の双方に対する脆弱性攻撃ツール(エクスプロイト)を連鎖的に悪用していたとトレンドマイクロは推測しています。
トレンドマイクロのインシデント・レスポンスチームは、中東で発生したSquirrelwaffleに関連するいくつかの侵入事例を調査しました。トレンドマイクロは、これらの攻撃手口に上記のエクスプロイトが関与しているかどうかを確認するため、初期アクセス時の手口について掘り下げて調査しました。
今回の推測は、トレンドマイクロが観測したすべての侵入事例が「ProxyLogon」と「ProxyShell」に対して脆弱とみられるオンプレミスのMicrosoft Exchange Serverから発生していたという事実に起因しています。本ブログ記事では、これらの観測された初期アクセス時の手口と、Squirrelwaffleキャンペーンの初期段階について詳説します。
続きを読む「QAKBOT(別名QBOT)」は広範囲に流行している情報窃取型マルウェアで、2007年に初めて確認されました。近年では、QAKBOTの検出が、多くの深刻なランサムウェア攻撃の前兆となっていることが確認されています。QAKBOTは、今日の多くのサイバー攻撃活動を可能にしているビジネス「マルウェアをインストールするサービス(malware installation-as-a-service)」の主力ボットネットであることもわかっています。このような初段の侵入で使用されるボットは、数カ月月単位で活動休止する場合があることが知られています。今年1月末のテイクダウンから10カ月月振りにEMOTETが活動を再開したことは11月18日の記事でお伝えしていますが、本記事で取り上げるQAKBOTも、約3カ月の休止期間を経て、2021年9月末からスパムメール送信活動の再開が確認されました。具体的には、マルウェアスパムの配信業者である「TR」が、別のマルウェアローダーである「SquirrelWaffle」やQAKBOTへ誘導する悪質なスパムメールを送信していたことが確認されています。また、10月上旬には、同じ「TR」がIMAP(Internet Message Access Protocol)サービスにブルートフォース攻撃を実行していたと報告されており、セキュリティリサーチャーの間では、「TR」が攻撃に必要な認証情報を取得するために「ProxyLogon」(Microsoft Exchange Serverの脆弱性)を使っているのではないかという憶測も流れています。

図1: QAKBOT関連のマルウェアスパムの検出推移(2021年5月10日~10月25日)
6月下旬から9月中旬までマルウェアスパムが出回っていなかったことがわかる
2019年以降、トレンドマイクロでは「Water Pamola」と名付けた攻撃キャンペーンを追跡してきました。この攻撃キャンペーンでは、当初、不正な添付ファイルを含むスパムメールを介し、日本、オーストラリア、ヨーロッパ諸国のオンラインショップが危険にさらされていました。しかし、2020年初頭から、Water Pamolaの攻撃活動にいくつかの変化が見られるようになりました。被害者は、主に日本国内のみとなり、トレンドマイクロによる最近のデータによると、スパムメールの代わりにオンラインショップの管理者が管理画面で顧客注文を確認する際に不正スクリプトが実行される状況が確認されるようになりました。

図1:Water Pamolaの攻撃フロー
続きを読む新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に伴い、オンラインサービスの利用が拡大しています。そのような傾向は以前から見られましたが、物理的な接触を避ける必要が生じたことによってこの傾向は加速したと言えます。公共サービスや「テレヘルス(遠隔医療)」に代表される医療サービスなど、多くのサービスがオンライン化されました。また、実店舗の閉鎖も相次ぎ、企業はオンライン取引の拡大に注力しています。
続きを読むこの数年、メール経由で拡散するマルウェアの代表格だった「EMOTET」は1月にテイクダウンされたため、メール経由の脅威全体も取るに足らないものになったように思っている方も多いかもしれません。しかし、マルウェアスパムを送信するサイバー犯罪者は別のマルウェアを拡散させるメールの送信を続けています。トレンドマイクロは、2021年3月にマルウェア「BazarCall」と「IcedID」の活動がグローバル全体で急増したことを確認しました。この2つのキャンペーンはどちらも、スパムメールを使用してユーザに不正なファイルをダウンロードさせるよう誘導します。BazarCallはコールセンターを使用するなど、より婉曲的な方法を採用しています。一方、IcedIDは昨年流行したEMOTETと同様に、スパムメールをより本物らしく見せるために実際にやりとりされた電子メールを窃取し再利用します。外部の複数のリサーチャーからもBazarCallとIcedIDが3月にスパムメールキャンペーンで積極的に拡散されていたことが報告されており、トレンドマイクロの調査結果と合致しています。一般的に、グローバル全体で活発化が確認された攻撃キャンペーンは後に日本を攻撃対象として同様の手法で展開されることがあるため注意が必要です。実際、一昨年から国内でのメール拡散が拡大した「EMOTET」も、グローバル全体でキャンペーンの活発化が確認された後に日本を攻撃対象とした日本語のスパムメールが拡散されるようになりました。

図1:「BarzarCall」を拡散させるマルウェアスパムの例
無料お試し期間が終了し支払いが発生するという内容で連絡先電話番号に電話するよう誘導する
マルウェアキャンペーンの背後に潜む犯罪組織の正体を見極めるのは難しい作業です。サイバー犯罪者は標的であるユーザや企業を混乱に陥れたり、システムやネットワーク環境に危害を加えたりするために設計したソフトウェアに自身の正体が露呈するような痕跡を残すことはめったにありません。しかし、識別のカギとなる情報を既知の情報源と比較することで、そのキャンペーンが特定のサイバー犯罪集団によって実行された可能性が高いと判断することができます。これは犯罪組織が長年にわたり活動を継続し比較対象となる痕跡を多く残している場合、さらに信憑性が高くなります。トレンドマイクロが発見し「Operation Earth Kitsune」と名付けた標的型攻撃キャンペーンについてその「TTPs(=Tactics, Techniques and Procedures:戦術、技術、手順)」に関する詳細解析の結果をホワイトペーパー(英語)にまとめて公開し、本ブログでも概要について報告しました。このキャンペーンに関与した2種の新たなスパイ活動を行うバックドア型マルウェアを拡散する水飲み場型攻撃の技術的な詳細解析を行う中で、韓国を主な標的とすることで知られるサイバー犯罪集団「APT37(別名:Reaper、Group 123、ScaCruftなど)」に起因した別のマルウェアとの顕著な類似性を発見しました。
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