アプリによるバッテリー消費の実状 ~国内スマホアプリの実態:第3弾~

スマートフォン(以下、スマホ)、いわゆるモバイル向けアプリには、さまざまな種類があり、中には無料または格安で活用できるものも多く存在します。しかしながら、すべてのアプリが利用者の期待する動作を実現してくれるわけではありません。アプリの性質を正しく評価し、安全で快適に利用するためには、そのリスクに対しても理解が必要です。本ブログでは、第1弾第2弾、第3弾の3回に分け、それらの理解の一助となるモバイルアプリの実状とその評価手段の一例を紹介します。


最終回となる今回は、スマホ向けアプリのリソース消費の課題とその実状における調査結果を報告します。

■スマホにおけるアプリのリソース消費の課題
トレンドマイクロが実施した調査によると、スマホ利用者の約 47%が「バッテリー消費が早いこと」に悩んでいます(※2012年1月調べ)。

手のひらに乗る PC とも言えるスマホですが、携帯性優先のリソース設計がなされているため、PC よりも限られたリソースしか利用することはできません。従来の携帯電話は、端末や OS、アプリの開発に対して、携帯電話製造会社が一括して責任をもち、品質検査が行われていました。対してスマホでは、携帯電話製造会社が提供していない機種依存度の低いサードパーティのアプリを使うことが可能になりました。このことは、アプリのマーケットに革命をもたらしました。前提が覆され、新たな登場人物が加わったことで市場が活性化し、利用者にとって有益なアプリの誕生が促進しています。

ただし、弊害も同時に生まれています。アプリの開発が端末や OS と一貫して行われないことが、もともと多種多様なスマホ環境における品質検証の作業を複雑化、断片化させています。また、誰でも自由にアプリのマーケットに参入できる環境が整っているため、スマホのプラットフォームに高い専門的知識を持たない個人の開発者であっても、自身が開発したアプリを一般利用者に容易に公開することができます。

これらのことは、利用者の想定していないレベルで、スマホのリソースを過剰消費する「潜在的に望まれないアプリ」が市場に存在する一因となっています。利用者は限られた情報の中から、アプリを選別する作業を強いられているのです。

■無料アプリが利用するリソース消費の現状
トレンドマイクロでは、2012年8月31日時点で Google社の発表した Google Play 無料アプリ(一般アプリとゲームアプリそれぞれの)ランキング TOP200 にランクインしたアプリに対するリソース消費の調査を行いました。調査対象データの詳細は表1、表2 のとおりです。

収集場所 Google Play-Japan
APKファイル数 400
収集対象カテゴリ ・Google Play-Applications、Free
・Google Play – Games, Free
収集対象日 2012年8月31日
収集基準 Google社の発表した対象日のランキングにおける、一般アプリの上位200とゲームアプリの上位200にランクインしたアプリ
収録詳細カテゴリ数 ・一般アプリ:22
・ゲームアプリ:6
表1:調査対象のデータ

詳細カテゴリ-一般アプリ 22種
Books & Reference:
書籍&文献
Business:
ビジネス
Comics:
コミック
Communication:
通信
Entertainment:
エンタテイメント
Finance:
ファイナンス
Health & Fitness:
健康&フィットネス
Libraries & Demo:
ライブラリ&デモ
Lifestyle:
ライフスタイル
Media & Video:
メディア&動画
Music & Audio:
音楽&オーディオ
News & Magazines:
ニュース&雑誌
Personalization:
カスタマイズ
Photography:
写真
Productivity:
仕事効率化
Shopping:
ショッピング
Social:
ソーシャルネットワーク
Sports:
スポーツ
Tools:
ツール
Transportation:
交通
Travel & Local:
旅行&地域
Weather:
天気
   
詳細カテゴリ-ゲームアプリ 6種
Arcade & Action:
アーケード&アクション
Brain & Puzzle:
パズル
Cards & Casino:
カード&カジノ
Casual:
カジュアル
Racing:
レース
Sports Games:
スポーツゲーム
   
表3:調査対象のアプリが属するカテゴリの一覧

本調査にあたっては、トレンドマイクロのモバイルアプリケーション評価技術である「Trend Micro Mobile App Reputation」(以下、Mobile App Reputation)を使用しています。

バッテリー消費量はアプリとハードウェアが複雑に絡み決定されるため、測定は容易ではありません。そこで、Mobile App Reputation では、ネット回線の使用帯域、メモリ消費量、使用するハードウェアリソース等、複数の要素を総合的に組み合わせることで、バッテリー消費量を 3段階で評価します。

今回は一般アプリ 200種類、ゲームアプリ 200種類、計 400 のアプリのバッテリー消費量レベルの状況確認と比較を行いました。

図1:アプリによるバッテリー消費レベルの分布
図1:アプリによるバッテリー消費レベルの分布

図1 に示すように一般アプリにおいて、最もバッテリー消費レベルの高い「High」の評価を得たアプリは全体の 9.0%でした。これに対し、ゲームアプリにおいては「High」の評価を得たアプリは全体の 16.5%でした。本結果では、一般アプリに比べゲームアプリの方がバッテリー消費レベルの高いものが多く存在しています。

ゲームアプリのバッテリー消費が高い背景のひとつに、3Dグラフィックス処理など高い処理能力を求めるアプリの存在が挙げられます。こうしたアプリの場合は、利用者もバッテリー消費量が高いことを許容の上で利用されていることが想定されますが、「High」評価のアプリには、2Dグラフィックを主体とした一見するとバッテリー消費効率を高めずに設計できると想定されるアプリも分布しており、リソース効率の良さを意識した設計となっていない、エゴなアプリの存在が危惧されます。

一般アプリについては、多くの人にとってエゴアプリと認識される可能性の高い「High」のレベルと評価された 17 のアプリのカテゴリは、対象全 22種中の通信、エンタテイメント、ファイナンス、写真、仕事効率化、ソーシャルネットワーク、ツールの 7種に分布しており、エゴアプリは特定のカテゴリに偏ることなく存在する可能性があることが判りました。

アプリのバージョンアップによる消費量の変化にも注目が必要です。今回、トレンドマイクロでは、代表的な 6つのソーシャルネットワークサービスアプリのバージョンによるパッケージサイズの変化を確認しました。図2 の通り、一部のアプリにはバージョンアップによるサイズの肥大化傾向が進んでいます。

図2:ソーシャルネットワークサービスアプリのapkパッケージサイズ変遷
図2:ソーシャルネットワークサービスアプリのapkパッケージサイズ変遷

アプリは開発者によって機能の強化・改善のバージョンアップが繰り返されています。多機能化が進むアプリでは、すべての利用者には望まれない機能が追加される場合もあります。また、こうした機能追加が利便性向上と反し、リソースへの悪影響を及ぼす場合もあります。

Android OS向けマーケットアプリである「Google Play」ストアアプリでは、「アプリの自動更新/デフォルトでアプリを自動的に更新する」機能を ON にしている場合でも、アプリのアクセス許可に変更があった際は、手動での更新(確認)を求めるセキュリティ機構が実装されています。

しかし、アプリによるリソースの消費量の変化について通知するような OS機構は用意されていません。このため、利用者自身がリソースの消費量の変化を確認し、そのアプリを使い続けるかどうかを判断する必要があります。

これらの課題に対処するためには、日常的にバッテリー消費のレベルを確認し、管理するような端末機能や、アプリの利用を検討するべきです。

このとき、バッテリー消費レベルを抑えることだけに着目し、利便性を損なったり、セキュリティのバランスを逸してしまうことには注意をしてください。セキュリティのバランスとは、例えばバックグラウンドで発生する通信をまとめて停止してしまった結果、紛失時に位置情報を確認するための GPS が機能しないといったことです。

トレンドマイクロでは、スマホ向けバッテリー管理アプリ「トレンドマイクロ バッテリーエイド」において、Mobile App Reputation による、アプリが使用するバッテリー消費量の調査結果と連携した「電力浪費アプリスキャン」と呼ばれる機能が実装されています。「電力消費レベル:ライト級、ミドル級、ヘビー級、未評価」の 4段階で評価を行っています。

このようなアプリを利用することによって、利用しているアプリのバッテリー消費レベルが一目瞭然となるため、場合によってはバッテリー消費の高いアプリの利用を控えたり、バッテリー消費が低い代替アプリの利用を検討することができます。結果的に、個々のアプリだけでなく、スマホ自体を長時間利活用することができます。

図3:「バッテリーエイド」の「電力浪費アプリスキャン」結果
図3:「バッテリーエイド」の「電力浪費アプリスキャン」結果

■「エコアプリ」活用のために
前々回前回のブログでご紹介した利用者にとって望まない動作をする「エゴアプリ」に相反する存在として、トレンドマイクロは、「エコアプリ」を定義します。ここでいうエコとは、「エコロジー(=省エネルギーを意識しており)とエコノミー(=経済的に妥当であること)の両義」をさします。ユーザの期待する機能を満たす際に、ユーザにとって妥当な範囲でリソースを消費し、ユーザが合意しアプリ利用の対価として妥当と判断する範囲でプライバシー情報を取得、利用するようなアプリを指します。エコアプリは、本来のアプリの利用目的の想定外のところで、ユーザにとって期待していた機能以上の満足感をもたらす可能性があります。

あるアプリが「エコアプリ」であるか、「エゴアプリ」であるかは、個々のユーザの主観によって異なります。あるユーザにとっては「エゴアプリ」と感じられるアプリも、他のユーザにとっては、目的どおりに活用できる「エコアプリ」である場合もあります。しかしユーザにとって「エコアプリ」または「エゴアプリ」を判断する際の重要な指標は共通で、その代表は、「アプリの不正な挙動」、「プライバシー情報の漏えいリスク」と「過剰なリソース消費」の3つです。

図:エコアプリとエゴアプリ

エゴアプリの氾濫を防ぎ、エコアプリの利用を増加させるために、利用者は、アプリの機能や評判、提供者など、アプリの信頼性に関する情報を自ら入手し、理解に努めることが必要です。また、利用者が自主的に情報を入手しようという努力に対し、アプリ開発者は、種類ごとに最も適した場面において情報提供・周知啓発を行うことが重要であるといえます。またマーケット運営者は、登録するアプリを事前検査することで、マーケット規模での品質の適性を図ることができるようになります。

なお、トレンドマイクロ独自の調査に基づき、日本国内のスマホ環境における「エコアプリ」と「エゴアプリ」の実状と課題について解説したリサーチペーパー「日本国内のスマートフォン環境における「エゴアプリ」と「エコアプリ」の実状」を公開しました。

アプリを取り巻く脅威とその背景を理解し、各々の立場でアプリの安全性や効率に関する理解が進み、その結果としてより健全なスマホアプリ開発・利用につながることを期待します。

  • 『日本国内のスマートフォン環境における「エゴアプリ」と「エコアプリ」の実状』
      http://inet.trendmicro.co.jp/doc_dl/select.asp?type=1&cid=108
  • 『日本国内のスマートフォン環境における「エゴアプリ」と「エコアプリ」の実状』

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