「タコイカウイルス」作者に実刑判決

2010年8月に「タコイカウイルス」を作成したとして逮捕・起訴された作者に対し、2011年7月20日、東京地裁は懲役2年6ヶ月の実刑判決を下しました(求刑は懲役3年)。

2009年に「Winny」や「Share」などのファイル共有ソフト利用者の間で話題になった通称「タコイカウイルス(イカタコウイルス)」。その動きは以下のとおりです。

  1. アニメなどの動画に偽装したファイル名、アイコンのファイルをユーザがファイル共有ソフト経由でダウンロード
  2. ファイルを実行するとタコやイカのアニメ動画が流れる(図1参照)
  3. 背後でPC内のファイルをすべてタコやイカの画像に置き換える(図2参照)
  4. PCの起動に必要なファイルまでも削除してしまうためPCが利用不能になる

図1:ウイルスを実行すると始まる画面
図1:ウイルスを実行すると始まる画面

図2:魚介類の画像ファイルに置き換わったスタートメニューフォルダ
図2:魚介類の画像ファイルに置き換わったスタートメニューフォルダ

感染させてユーザを困らせるという愉快犯型不正プログラムの典型例ですが、2010年8月にこの「タコイカウイルス」を作成し、ユーザのパソコンを使用不能にしたとして器物損壊の容疑で作者が逮捕されました。

■器物損壊容疑による逮捕の背景
本日7月20日の判決はその逮捕容疑に関する第一審の判決だったわけですが、そもそもどうして容疑者は「器物損壊容疑」で逮捕されたのでしょうか?

以前にも本ブログで紹介したとおり、日本では不正プログラムの所持や作成を取り締まる法整備がなされていませんでした。そのため、不正プログラムの作者が明らかになったとしても立件するためには具体的な損害や犯罪の故意性といったものの立証が必要だったのです。

2008年に、これまたファイル共有ソフト経由で感染する通称「原田ウイルス」を作成したとして関西の大学院生(当時)が逮捕されましたが、このときにも実在するアニメの画像を勝手に利用した著作権法違反と実在の知人の写真などを勝手に利用した名誉毀損によって逮捕・起訴され、執行猶予付きの有罪判決が下っています。

そして実は「タコイカウイルス」作者はこのときに執行猶予付きの判決を受けた人と同一人物だったのですが、前回の罪状が著作権法違反などであったため、今回は同じ罪に問われないようにタコやイカなどの画像(図3参照)を本人が作成したと供述しています。

図3:上書きに使われる画像例
図3:上書きに使われる画像例

■2011年7月14日、「ウイルス作成罪」施行
今回の裁判では器物損壊罪に該当するかどうかが争点となりましたが、2011年6月に衆院本会議で可決・成立した通称「サイバー刑法」によって、7月14日よりすでに「ウイルス作成罪」の適用が開始できる状態になっています。適用の対象や犯罪の故意性などについては様々な議論がありますが、安全なインターネット利用に向けた環境整備のためには重要な一歩と言えるでしょう。