「Waterbear(ウォーターベア)」は、2010 年 10 月から活動が確認されているサイバー攻撃キャンペーン、およびキャンペーンで使用されたマルウェアの呼称です。Waterbearの背後にいるとされる攻撃集団「BlackTech(ブラックテック)」は、台湾をはじめとして日本や香港を含む東アジアのテクノロジー企業と政府機関を対象としたサイバー諜報活動を行い、「PLEAD」や「Shrouded Crossbow」などの悪名高い攻撃キャンペーンにも関与しています。以前に確認されたWaterbearは、「ローダ」コンポーネントを用いることによって、最終的な攻撃を実行する「ペイロード」を読み込み実行するものでした。ペイロードは大抵、遠隔から追加のモジュールを受け取り読み込むことのできるバックドア型マルウェア(以下バックドア)でした。しかし、今回確認されたWaterbearでは、APIフックの手法を採用することによって特定のセキュリティ対策製品から自身のネットワーク動作を隠蔽するという、新しい目的を持つペイロードが発見されました。フックするべきAPIを知っているということは、セキュリティ対策製品がクライアントの端末およびネットワーク上の情報をどのように収集するかを攻撃者が熟知している可能性があります。解析の結果、この特定のセキュリティ対策製品のベンダーはアジア太平洋地域を拠点とすることが確認されました。これはBlackTechの攻撃対象地域と一致します。ただし、このAPIフックのシェルコードは一般的な方法が採用されており、シェルコードを別のセキュリティ対策製品用に応用することも可能です。そのため、今後の攻撃においても同じ手口が使用される可能性があります。
続きを読む標的型攻撃では、攻撃者ごとに特徴的な攻撃手法を使用するものと考えられており、標的型攻撃の攻撃手法を分析する上で重要な要素となっています。本記事ではトレンドマイクロが確認した標的型攻撃の中から、「APT33」と呼ばれる攻撃者(以下簡略化のためAPT33とします)について、遠隔操作通信の追跡困難化手法をまとめます。APT33の数年にわたる活動については多くの報告が出ており、石油産業および航空産業を標的として活発な攻撃を行っているものと考えられています。トレンドマイクロは最近、APT33が、12台ほどのCommand&Control(C&C)サーバを攻撃に利用していることを確認しました。これはC&Cサーバの運用をわかりにくくするための手口と考えられます。APT33はこのような追跡困難化の手口を何層も加え、中東や米国、アジアにおいて標的型攻撃キャンペーンを展開しています。
続きを読む脅威を積極的に探索する「スレットハンティング」、そして専門家が蓄積する脅威についての知見である「スレットインテリジェンス」の共有は、サイバーセキュリティ業界での一般的な慣行であり、多くの専門家のみならず、実際の対策のためにも役立っています。スレットインテリジェンスの中でも、マルウェア検体間の類似性調査は、あるマルウェアに関連する亜種の把握に使用されます。特に標的型攻撃の調査においては、使用されるマルウェアの類似性から複数の攻撃事例の関連性や、その攻撃の背後にいる攻撃者や攻撃目的などを導き出すための重要な情報となりえます。トレンドマイクロではマルウェアの類似性を特定する調査方法の1つとして「Graph Hash」の活用を進めています。今回、その有用性を実証するために、日本でも攻撃が確認された標的型攻撃キャンペーン「Orca」の調査にGraph Hashを適用しました。
※本記事で解説する「Graph Hash」を利用した調査の手法は、2019年8月29日にシンガポールで開催された「Hack in the Box GSEC Conference 2019」における講演「What Species of Fish Is This? Malware Classification with Graph Hash」で解説されたものです。
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トレンドマイクロでは、2018年の1年間に確認した、日本国内における「標的型攻撃」に関しての分析を行いました。ネットワークに侵入する攻撃は、法人組織にとっては深刻な被害につながりかねない危険な存在です。トレンドマイクロのネットワーク監視の中では、3社に1社の割合で脅威の侵入可能性高として警告が行われており、そのうちの6割、全体で見ると5社に1社では遠隔操作が行われた疑いも検出されています。このような状況の中で、極力マルウェアを使用せず正規ツールやOSの標準機能を利用して活動を行う攻撃戦略が攻撃者の常套手段となってきていることがわかりました。
図1:ネットワーク監視における脅威兆候の検出有無と侵入の疑いの検出の割合(n=100)
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トレンドマイクロでは2019年第1四半期(1~3月)における国内外での脅威動向について分析を行いました。数年前まで全世界的に猛威を振るっていたランサムウェアの攻撃は2018年には急減し、既に終わった脅威のように思われているかもしれません。しかし法人でのランサムウェア被害事例の中からは、明確に法人組織を狙った標的型攻撃の中でランサムウェアが使用されたと言える事例が複数確認されており、事業継続を脅かすような深刻な被害を与える存在となっています。
続きを読む2018年において、ランサムウェアによる攻撃は減少傾向にありましたが、最近は再び元の勢いを取り戻しつつあるようです。しかしながら、今回確認されたランサムウェア攻撃は以前のようなばらまき型の攻撃に比べると標的を絞っているように見受けられます。身代金要求文書に社名が記載された米国の飲料会社に対するランサムウェア攻撃のニュースが発表された直後、トレンドマイクロは米国の製造会社を攻撃した暗号化型ランサムウェア「BitPaymer」の亜種(「Ransom.Win32.BITPAYMER.TGACAJとして検出)を調査しました。飲料会社の事例と同様に身代金要求文書に社名が記載されていたことから、この事例も標的型の攻撃だった可能性があります。
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日本トレンドマイクロで法人を狙うサイバー脅威情報の収集・分析を行っているCyber Threat Research Team(CTRT) では、お客様からの脅威関連の問い合わせ状況、ならびにトレンドマイクロのクラウド型次世代セキュリティ技術基盤「Smart Protection Network(SPN)」における様々な脅威の検出状況をモニタリングしています。2019年4月現在、CTRTの観測範囲では、Tick、BlackTechといった攻撃者グループや、Taidoorキャンペーンによるものと推測される日本の組織への攻撃活動を確認しています。
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