■「Rove Digital」の正体
不正プログラムによる感染からその感染コンピュータをボットとして利用して金儲けをするまでの全段階に関与していたサイバー犯罪グループが、「Rove Digital」という名前で知られている会社になります。この Rove Digital は、その他の「Esthost」、「Estdomains」、「Cernel」、「UkrTelegroup」、さらには、あまり知られていない小規模なダミー会社を統括する「親会社」でもありました。
Rove Digital は、一見すると、タルトゥ市にオフィスを構える「社員が毎朝出勤するごく普通の正規の IT企業」のようでもあります。しかしその正体は、このオフィスを拠点として、世界規模で感染させた膨大な数のボットをコントロールし、毎年それらのボットから莫大な金銭的利益を不正に得ていたサイバー犯罪グループでした。
子会社の Esthost は、Webホスティングサービスの再販業者を名乗っていましたが、サンフランシスコに設置していた自社のプロバイダ「Atrivo」が民間機関によって運転停止された際に同時にオフラインになったことが 2008年の秋に報じられています。また、これと同時期、Rove Digital のドメイン登録会社を名乗っていたEstdomains も、ICANN からの指示で認証資格が失効されています。これは、同社の CEO である Vladmir Tsastsin 氏が、母国のエストニアにおいてクレジットカード詐欺に関する有罪判決を受けたのが理由でした。こうした背景から、「Esthost も主にサイバー犯罪に関与している顧客を抱えているのではないか」という疑いが世間で高まり、Rove Digital も Esthost からのホスティングサービスを停止せざるを得なくなったようです
しかし、彼らのサイバー犯罪自体は別の形で継続されました。過去の事例から得た教訓を活かし、Rove Digital の背後の犯罪者グループは、「C&Cサーバのインフラを世界中に分散させる」という手段を講じたのです。こうして、かつて Atrivo でホスティングされていた大多数のサーバは、ニューヨークの Pilosoft データセンタに移行されたのです。むろん、ここにも彼らは以前から複数のサーバを保持していました。
図2、3:Rove Digital の被害者から示された取引明細書
Esthost が多数のサイバー犯罪者に利用されていたことは、2008年の時点でも報じられていました。しかしながら、当時でも報じられなかったのが、Esthost および Rove Digital の双方とも直接的にこうしたサイバー犯罪に深く関与していたという事実でした。
トレンドマイクロでは、Rove Digital が、単に不正プログラムの感染活動を行っていたというだけでなく、C&Cサーバや偽DNSサーバから、DNS改変型ボットネットを駆使したクリック詐欺による金銭詐取に使われたインフラまで、手広くコントロールしていたという事実を掴んでいました。また、DNS改変型不正プログラムの他にも、Esthost および Rove Digital の双方は、偽セキュリティソフトやクリック詐欺関連の不正プログラムの拡散から、(このエントリでは詳細は言及しませんが)薬品の不正販売やその他の様々なサイバー犯罪に関与していたことも我々は把握していました。
こうして過去数年にわたり収集された各種の証拠から、トレンドマイクロでは「Esthost および Rove Digital の双方とも、サイバー犯罪や詐欺行為に直接関与していたのは疑いのない事実である」と確信していました。Esthost および Rove Digital に対しての疑いは、こうした一連の簡単であるが紛れも無い事実の把握がきっかけとなりました。
すべての偽DNSサーバを一度に更新できるバックエンドサーバも、「dns-repos.esthost.com」に存在していました。また、偽コーデックに関連する不正プログラムのバックエンドサーバも、「codecsys.esthost.com」に存在していました。このように示唆的な名前がサブドメイン名に使われていることから、「esthost.com」のドメインがハッキングでもされない限り、Esthost 自体だけができることになります。実際、ドメイン「esthost.com」がダウンした際、Rove Digital は自分たちが利用している C&Cサーバに「intra」で終わるプライベートなドメイン名を使用し始めました。我々は米国にある Rove Digital のサーバの 1つから完全な .intra のゾーン・ファイルのダウンロードに成功しています。
図4:Rove DigitalのCEO、Vladmir Tsastsin氏
また、2009年には、2つのC&Cサーバに関連するハードディスク・ドライブのコピーも入手しました。ここから、「(DNS改変型の不正プログラムに感染したユーザによる)Webサイト上の広告の置き換え」も確認されました。また、このハードディスク・ドライブでは、Rove Digital の複数社員のものとされる SSH の公開鍵も確認しています。この公開鍵により、Rove Digital の社員がそれぞれプライベートキーで、パスワード無しでも C&Cサーバにログインすることができます。そしてサーバから入手できたログファイルをもとに、該当の C&Cサーバは Rove Digital のタルトゥ市のオフィスからコントロールされていたことに間違いないと、我々は結論づけていました。
こうして発見した被害に関する情報から、エストニアと米国で Rove Digital により管理されている IPアドレスから Rove Digital の社員が試験的にいくつかの注文を実施していることも把握していました。こうした点から、まさしく Rove Digital 自体が、偽セキュリティソフトの販売に直接的に深く関与していた事実が分かります。
トレンドマイクロでは、このエントリ上ではすべて公開することができませんが、今回の件に関して様々な形の証拠を入手しています。我々が確認した証拠から、Rove Digital が大規模なサイバー犯罪に加担しており、巨大な「DNS改変型ボットネット」に直接関与していることは明白な事実です。
トレンドマイクロは、FBI、エストニア警察、トレンドマイクロ、その他業界関係者の連携が危険かつ巨大なボットネットの閉鎖を実現できたことを大変嬉しく思います。また、Rove Digital に関連する調査は地道な努力が伴いましたが、このような捜査協力関係があったからこそ、このボットネット犯罪に関与する容疑者逮捕につながったのではないでしょうか。
トレンドマイクロでは、初期の段階で Rove Digital が関与する C&Cサーバおよびバックエンドサーバのインフラを特定することに成功していました。そして、2011年11月8日時点まで、関連する C&Cサーバを継続して監視しました。一方、今回の捜査に協力した多数の業界関係者も、感染ユーザへの被害を最小限に抑えつつ管理下のもとでボットネット閉鎖を実現しるのに膨大な貢献を果たしました。